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奥村奈津美

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【奥村奈津美のミライ防災+】サステナブル防災のススメ ④オーガニック

By Published On: 2021年12月24日Categories: 防災コラム0.2 min read

連日取り上げられている、地球温暖化による気候変動の問題。

私たちが毎日食べている食料などを生産するためにも、多くの温室効果ガスが排出されています。

全世界の二酸化炭素(以下CO2)排出量のうち23%が、農業・林業・その他土地利用によるもの(2007~16年平均・出典IPCC)、食品ロスまで含めた食料システムによる排出は、およそ30%になるとも言われています。

いかに「食」における排出を削減するか、大きな課題となっています。

これまでに、コンポストと防災(【奥村奈津美のミライ防災+】サステナブル防災のススメ③コンポスト)について取り上げましたが、今回は「オーガニック」。

毎日の買い物や食事で「オーガニック」を選ぶことが、気候変動対策や持続可能な未来につながっていくと注目されています。

オーガニックとは?急成長する有機農業

 

そもそも「オーガニック」とは、日本では「有機」と訳され、農業分野では「有機農業」と呼ばれています。

平成18年度に「有機農業推進法」が策定され、化学肥料や農薬、遺伝子組み換え技術などを用いないで、環境への負荷をできる限り少なくした方法で作る農業と定義付けられています。

国際的なコーデックス委員会が作成した「ガイドライン」には、有機農業は「生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムである」とされています。

2015年のSDGsの策定もあり、気候変動や生物多様性などさまざまな点で持続可能性の高い農業と期待されているのです。

この有機農業を、ヨーロッパでは、2030年までにEU全農地の25%へ、そして日本も2050年までに25%へ拡大させるという目標を掲げています。

日本の有機農業取り組み面積は、現在0.5%ほどなので、実に50倍もの急拡大を進めることになります。

日本の農業の現状と今後の戦略

「日本でも、なぜ有機農業を拡大させることにしたのか?」。

それを知るべく、農林水産省の担当者を取材しました。

日本では、水田への堆肥の投入量が30年前の3分の1まで減少しています。

産地の中には、土地の地力低下により、収量や品質の低下が見られるなど、土づくりによる地力の維持向上の重要性が指摘されています。

また、化学肥料の大半が輸入に依存。このところの原油高も加わり、価格が高騰しています。

今後も市況によってコストが増加したり、入手が困難になる恐れもあるのです。

このような課題などがある中、農林水産省では「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、農業全体でCO2ゼロエミッション化、化学農薬の使用量50%低減、化学肥料の使用量30%低減、さらに、有機農業の取り組み面積を25%まで拡大させるーという目標を掲げているのです

 

有機農業が、なぜ気候変動対策につながるの?

農林水産省では、有機農業に取り組んだ場合と、一般的な管理(化学肥料などを使用)を行った場合では、有機農業の方が温室効果ガスの排出量が少ない、という調査結果を出しています。

その理由の一つが、土壌の炭素貯蔵量。

土壌中には大気の2倍、陸上植生の3倍の炭素があると言われています。
堆肥や草のすき込み(緑肥)によって炭素を土の中に入れると、一時的に土の中に炭素を貯留することができ、土壌中の炭素が増えた分、大気中のCO2が吸収された、と考えられるということです。

出典:農林水産省「環境保全型農業の成果リーフレット」

 

また、有機農業はCO2を排出する化石燃料により作られた化学肥料や農薬を使用しないため、製造過程で出るCO2を減らす効果もあります。

さらに海外からの輸送におけるCO2も削減できます。

農林水産省農業環境対策課(有機農業推進班)の嶋田光雄課長補佐は「有機農業は、人間に例えれば、風邪を引きにくい体を作るようなものと言えるのではないでしょうか。

一朝一夕にはいかないですが、薬を用いて対処療法するのではなく、体力をつけて病気に強い体づくりをする、というイメージが近いのではないかと思います。

ですので、いかに土づくりをするかが基本になると考えます。

有機農業は慣行農業より収量が上がらないという声もありますが、実際には、品目によっては、有機農業でも同じくらいの収量を上げることができている農業者も出てきています。

長期的視点での土づくり、栽培技術の開発、人材育成を進めていきます」と話しています。

農水省は来年度予算の概算要求で、生産から加工・流通、消費まで一貫した取り組みを推進するための「オーガニックビレッジ」を2025年までに100市町村で実施するなど、オーガニックの輪を広げるための事業や、都市農業でも有機農業を実施するためのモデル事業の費用を要求しています。

有機農業が防災にもつながる

2009年から有機農業の普及拡大に向けた様々な啓発活動を行なっている、全国有機農業推進協議会の理事・事務局長を務める、小原壮太郎さんは、実感として、他の面でも有機農業が気候変動対策につながると考えています。

農業・農村は、食の生産現場としての役割だけでなく、例えば、雨水を一時的に貯留し、洪水や土砂災害を防いだりと、多面的機能を有しています。その機能を有機農業はより高められるのではというのです。

「有機農業の核は、やはり豊かな土づくり。

団粒化した土というのですが、いわゆる生態系微生物菌とか昆虫によって、ふかふかで、保水力もあるし、でも水はけもいいという、高機能の土ができるんです。

僕が有機農業に出会った2009年。

千葉県のサツマイモ畑で象徴的な出来事がありました。

サツマイモは収穫した後の畑が広がっていたのですが、その日は風が強くて砂嵐みたいになっていました。

歩いてたら目の中に砂みたいなものが入ってきて「痛い痛い」となったんです。

でも、有機農業による畑に行くと、そこだけ土ぼこりが全く立っていなかったんです。

しっとりした土がそこにはありました。

また、雨の日にも訪れたんですが、いわゆる慣行農業、農薬・化学肥料を使っている畑に行くと、今度は水溜りみたいになっていて、一方の有機農業による畑はしっとりした土のままで、大量な水を吸収し、水は含んでるけど、でも、水溜りになっていなかったんです」

土壌が豊かになること、つまり土壌有機物が増えることは、保水性や透水性・通気性だけでなく、養分保持にも優れ、土壌の機能性が高まることにつながるという小原さん。

気候変動による異常気象にも強い農業になると有機農業に期待しています。

 

「オーガニックは、我々のライフスタイルを大幅に豊かにしていくための一つのツール、選択肢だと思っています。 社会を変えるのは、国民一人ひとり。有機農業オーガニックの普及拡大も含めて、『そうだよね、そうなったらいいよね』ということにそれぞれがアクションしていくことが大切なんです。

例えば、子どもの学校給食を有機農産物や有機加工食品が出るような流れにするためにPTAとして働きかけてみたり、地元のスーパーで有機農産物コーナーの野菜を買ってみたり。

そういう小さな一歩を重ねていくことによって、社会って確実に変わっていく。

社会も地球もポジティブに変わっていくと思うんですよね」と小原さんは言います。

現在、日本の食料自給率は37%、日本の農業の担い手不足、高齢化が叫ばれ続ける中、食の安全保障を考えても、日本の農業を持続可能な形にすることが求められています。災害時も、食の生産現場が近くにあることが大切なのは、コンポストのコラムで綴った通りですが、小原さんも個人的に農家さんと信頼関係を築き、何か起きた時の疎開先、食料確保をしておくことが防災対策として重要だと話していました。

国産、地産地消の食材を購入すること、さらにはオーガニック食材を選び持続可能な農業を応援すること。

まさに、毎日の買い物でできる未来への投資ですね。

 

今日のごはん、あなたはどんな食材を選びますか?

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